この同じ人物や文様を繰り返し刻んだ構成は、オリエント世界に交易を通じて広く使われた円筒印章の展開刻印像からの発想をも思わせますが、実際に紀元前二千年紀中頃のバビロニア由来の印章には同様の人物の体勢と衣装の様子が表現されています。

足首まで垂れた縁飾りのある衣装の右肩をむきだしにし、後に右腕を垂らし、左腕はほぼ垂直に曲げ掌を腹部にあて、右腕にはしばしば刀あるいは杖を持つ―― この体勢と衣装は当時のバビロニアを支配していたインド・ヨーロッパ系民族カッシートのスタイルから取材したものと思われます。

B.C.19世紀の北メソポタミアの印章にカッシート型の元になったものの一つと思われ祖型を見ることができます。

更にバビロニア・カッシート印章は、刀のようなものを左手に持った人物が右肩脱の足首まで垂れた衣装をつけ、開いた両足の間には帯と思われるリボン状の垂れが見え左、腕手首のあたりからは三角形の袖を思わせるものが垂れています。

紀元前二千年紀前半の北メソポタミアの印章には、衣の折り返しが何物か長い棒状のものをこの人物が左腕に抱えているようにも見られかねないものがあります。

更にこの人物の前には日月をかたどった天体の意匠が表わされ、このエレクトラムのカップのロゼット文に通うものがあります。

このシミタール刀のような逆S字型をした杖及び衣の折り返しが、交易に使われた封泥の刻印像として伝わった場合、このエレクトラム杯に見られるような衣の折り返しとも逆S字型の板ともつかない表現に変容していった可能性も考えられます。

Dominique Collon/ First Impressions-Cylinder Seals in the Ancient Near East/1987 Chicago 181,199,235,236,652
古代オリエント地図 Map of Ancient Orient

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人物文様杯