エレクトラム'electrum'は金と銀の自然の合金のことを指します。金は本来ある程度の割合で銀を含んで産出されるますが、ローマ時代のプリニウス以来その銀の割合が1/5以上である場合エレクトラムと呼ばれるようになりました。
一般的にはエレクトラムが金と銀の合金であるという認識及びその分離技術が発達したのは紀元前6世紀の中頃であると言われています。
またローマ時代のプリニウスによれば、天然のエレクトラムの器は毒味の働きがあり、毒が注がれると虹のような半円形がその表面に走り、ぱちぱちと言う火の燃えるような音をたてるとされています。
あるいはエレクトラムの杯にはこの紀元前二千年紀後半頃の西アジアにおいてもそのような一種の魔除の機能が考えられていたのかもしれません。
古代メソポタミアの疾病に対する魔除けと癒しの儀礼には、しばしば魚の衣とライオンの頭部をつけた人物が登場します。
マルリク出土の薄い金板による器には(Negahban 1983, 5)魚の文様が刻まれ、北西
イラン由来と言われるエレクトラムの器(Culican 1965,pl.7)にはライオンの頭部を持
った魔物と魚が刻まれています。
このような薄い金あるいはエレクトラムで作られた器には古代の呪術的な癒しあるいは魔除けのならわしにつながる何等かの意味合いが込められていたのではないかと考えられます。
・William Culican/ The Medes and Persians/ New York 1965 , pl. 7 ;
・Horst Klengel/ Handel und Haendler im alten Orient/ 1983 Leipzig;
・Pliny/ Natural History/ XXXIII 81;
・Eric M. Meyers / The Oxford Encyclopedia of Archaeology in the Near East/ London
1997;
・Erica Reiner/ Astral Magic in Babylonia/ Philadelphia 1995
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