江戸時代 18世紀
高:7.3cm 口径:9.3cm 高台径:4.7cm

腰から下には,轆轤を回転させながら箆削りが施され,高台も削り出されている。外面の体部にのみ白泥が刷毛塗りされ,銹絵と染付で松の樹を下絵付けした後,透明釉が掛けられている。全体のプロポーションや高台の削り出し具合を見ると,近年,京都市内の遺跡から桃山茶陶などに伴って出土することが知られてきた軟質胎土の施釉陶器の一群によく似たものがある。

これらは,尾形乾山の『陶工必用』(江戸伝書)に記載のある押小路焼にも比定しうる内容のものであることが指摘されており,『陶工必用』の記述によれば,押小路焼の陶工である孫兵衛なる人物は,乾山の鳴滝窯開窯にも参加していたというから,両者の類似は,乾山焼工房のなかに孫兵衛のような陶工の存在を示唆していると考えることもできる。

また,注意しておく必要があるのは,乾山焼の特色の一つである白泥による白化粧の手法も,軟質胎土の施釉陶器のなかに存在していることで,乾山焼の技術系譜は『陶工必用』のような陶法伝書だけからではなく,作品自体からも追えるようになってきつつある。(尾野)

関連美術品
乾山銹絵染付松図茶碗