室町時代 14-15世紀
橋長:40.0cm

扇は,あおいで風を送る道具として,また公家の男女が正装のときに携えて威儀を糺すのにも用いる。この檜扇は,檜の薄板二十七枚を橋として構成され,末の方を絹糸で綴じ,要で留めて開閉ができるようにしている。

表裏ともに雲母を刷き,金銀切箔,野毛を散らして,たなびく雲や霞を表し,表面に松浜と紅白の花卉,裏面に紅葉と遠山の景の彩絵を施して,華やかな趣を呈している。綴じ紐に用いた白い絹糸は後補のものである。

なお,本品に彩絵の手法が酷似し,しかも大きさや橋の枚数が一致する檜扇として,熊野速玉大社(新宮市)に伝わる古神宝類中の事例がある。熊野速玉大社の神宝は,明徳元年(1390)の造替・遷宮にあわせて,三所神殿ほか十二社ならびに摂社の阿須賀神社のそれぞれに奉献されたもので,檜扇は都合十握が現存している。

それらと本品とを詳細に比較すると,神宝中の檜扇が,いずれも花鳥,樹木,風物などを,雲霞,山水などの背景のなかに比較的明瞭に描き込んでいるのに対し,本品ではその関係がやや散漫で,細部の表現にもあいまいさがある。

とはいえ,形式や趣が酷似しているという点では,速玉社古神宝との関係が最も深いとも思われ,両者の製作年代が大きく隔たるということはなかろう。(関根)

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