乾山の作風はすこぶる多種多様である。銹絵、色絵、日本のものに限らず、朝鮮の刷毛目や中国の磁州窯、オランダのデルフト窯などの写しなど実に多彩である。豊かな教養と広範な知識を有していた乾山は、それぞれの特徴の吸収して巧みに自らの作品に反映
させていったのである。
この蓋付碗は薄く丁寧に轆轤成形された器胎に白化粧が施され、その上から鉄釉で薄を描き、無地の部分を緑釉で掛け分けている。そこには織部風の意匠が見てとれる。この無地と文様部分、色使いの明暗のコントラストはまさに織部があみ出した意匠であり、乾山はそのバランス感覚を見事に自分のものとしている。しかも薄の文様には、優美ではあるが線の細さを感じさせる京焼の作風は微塵もなく、宗達、光悦、光琳の流れをくむいわば琳派の意匠性が感じとれるのである。
身も蓋も全面に意匠が施されたこの茶碗は、もとは五客ないし十客の組物であったと想像されるが、一客のみが伝わっている。高台内には銹絵で楕円形に縁取られた白化粧の上に同じく銹絵で乾山銘が記されている。
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乾山色絵薄図蓋茶碗