金銀泥で雲を描き、砂子、箔、野毛を霞引きにした豪華な料紙に、歌五首を一首三行にして書き連ねている。形状から、もとは巻子本であったと思われる。伝来では金剛院切と呼ばれ、亀山天皇の筆とされてきたが、藻塩草所載等の金剛院切とは紙幅も違い、手も少々違うようである。むしろ、金銀散らしの料紙はより重厚で、筆勢もゆったりしている。
 文保百首は、後宇多院によって、続千載和歌集の編纂が文保二年(一三一八)に決められた際に、当代の歌人達から百首を召して、その資料としたものである。この五首は第六冊の昭訓門院春日(公宗母)のもので、第二首の「わきてまた…」の歌が続千載和歌集の所収となっている。金銀の霞に浮かぶ歌の連なりは、温雅な書風と相俟って、たおやかな雰囲気を醸し出している。

関連美術品
文保百首断簡(伝亀山天皇筆)