丁子を漉き込んで芳香を発する香紙に書かれたこの書は、古来小大君の筆とされてきたが、作者についての確実な記録はない。現在香紙切は複数の筆者の手になると考えられ、これはその内でも最も多く残っている書風で、奔放かつ繊細な線が美しい。
 麗花集は一一世紀の後拾遺和歌集の序に「うるわしき花の集といひ、…(中略)…誰がしわざとも知らず、また歌のいでどころもつまびらかならず…しかれば、これらの集にのせたる歌は、必ずしも去らず」とあり、当時から選者はわからないながらも、勅撰集の素材とされた著名な歌集であったことが窺われるが、現在は散逸してしまっている。
 この歌は三十六歌仙の一人・大中臣能宣のもので、彼は円融、花山両帝の時代に歌集を献上したとの記録がある。三十六人集本のこの歌の詞書きには、「なしつぼにて、おほやけごとつかまつるとて、あるないしのつぼねより、ふぢのはなにものをむすびつけて、きりかけのはざまよりさしこしたるに」とあり、宮廷で衝立の隙間から差し入れられた藤をみて詠まれたことがわかる。

関連美術品
麗花集断簡(香紙切)(藤原公任筆)