尾形光琳(一六五八〜一七一六)は、京都の呉服商の出身。俵屋宗達、本阿弥光悦をはじめとする装飾芸術の流派である「琳派」の大成者。
 本図の大黒様は右手に竹の杖を,左手に小槌を持つが、通常なら乗っているはずの俵を袋もろとも背中に担ぎ上げ、今にも歩き出しそうな気配である。喜びに満ちた表情から制作過程の光琳自身の心境を物語るものという意見もある。すなわち「法橋光琳」の署名、「道崇」印の他作品との比較により、江戸在住期を終えた光琳の、宝永六年に帰京する前後の喜びの姿と捉える説である。光琳は著色の作品に代表作が多いが、水墨画作品の活き活きとした描線からして、光琳の真骨頂は水墨画にあるという見方があり、本作も一見速筆の流れに眼がいくが、主体となる輪郭線に薄墨を入れ、頭巾、小槌、両足を濃墨で引き締めるなど細やかな神経に裏打ちされた佳品である。

関連美術品
大黒図(尾形光琳筆)