三本の木 レンブラント・ファン・レイン 図録解説
レンブラントはしばしばアムステルダム郊外の田舎へ出かけ、周囲の農家、運河、農地などをスケッチした。屋外でのスケッチから、数々の風景版画が生まれることとなった。それらのなかには、細部が具体的に描き込まれていて、場所を正確に特定できるものも少なくない註1。しかし、このドラマティックな風景はそのような版画とは対照をなすものだ。実際の景色がもとになってはいるものの、オランダの風景を連想させるいくつかの要素―たとえば、背景となっている、町の遠景に沿って伸びる堤防と、その手前に広がる海抜の低い農地などが組み合わされている。荘厳な自然の姿により、画面全体が際立った印象になっている註2。できすぎた雰囲気のこの「三本の木」は、レンブラントの風景版画のなかでも異例の存在である。田舎の風景にまだらな影を落としていく、動きの速い雲と雨の様子を、画家は捉えている。このような天候の変化はいかにもオランダらしいものである。左へわずかにたわんだ3本の木から、風の向きを知ることができる。細部の描写は極めて緻密である。左側には、釣りをする男性。その隣では、かごを持った女性が彼を待っている。右側では、前景の薄暗い藪の中で別の男女が逢引きの最中。下生えのさらに暗い場所には、ヤギが1匹立っている。右端の丘の上には、この壮大な風景に背を向けて遠くの景色をスケッチしている画家が小さく描かれており、絵の中におさまりきらない雄大な自然の姿を連想させる。当時のオランダの人々は、絵を見るとき、自然と風景を神の創造と関連づけるのが常だった。3本という木の数も、そのできすぎた構図と共に、象徴的な意味を暗示している。つまり、イエス・キリストの磔刑の場にあった3本の十字架と、三位一体を表すものとして描かれているのである註3。レンブラントは、隙間なく引かれた線と見事な明暗表現により、この重厚な版画作品を作り上げた。光のスペックルが構図の左下部分を浮かび上がらせ、野原や前景の人物をほんのり暗く見せている註4。 (Nadine M. Orenstein)
|