色絵雪杉図向付 美し 乾山 四季彩菜 図録解説
雪にまつわる図柄は松だけではなく杉もあるぞと、この向付はそう主張しているように思えます。雪を被った幾本かの杉が重なり合う構図で、これもその姿がそのまま器の形となっています。
型造り成形、白化粧の下地を施して銹絵で杉の枝幹を描き、裏面の側の一部にも白化粧下地を施して銹絵で刷毛引きされています。全体に透明釉を掛けて本焼した後、杉葉の部分に緑の色絵が上絵付けが施されています。一見して判り難いですが、よく見ると幹の根元、土坡の部分には金彩が施されています。
裏面には、六ないし七角錐形の脚が三つ付き、畳付のみ土見せ、中央に短冊形の白化粧下地に銹絵で縁取りされた乾山銘が記されています。透明釉には全体に細かい貫入が、白化粧の部分にはいくつもピンホールが生じ、柔らかい釉調の肌合いは何ともいえない味わいがあり、また底に生じた、美しい灰青色をした灰釉系透明釉のトンボの目状の釉溜りも見どころのひとつといえるでしょう。冠雪を表すため、乾山お得意の口縁の銹絵口紅は施されていません。これもよく考えられた意匠といえます。
本来は組物であったものと思われますが、今のところ他に作例は見られません。成形法や乾山銘の施し方など、典型的な二条丁子屋町時代の作風を示す向付と位置付けられます。前出の竜田川図や、菊図(東京・五島美術館、福岡市美術館蔵)、雪松図(大阪・湯木美術館、個人蔵)などとともに、この雪杉図も然(しか)り。金彩の施された乾山二条丁子屋町時代の向付群は、同じ食器の中でも一ランク上の特別な注文品であったように思えます。
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