銹絵染付絵替扇形向付 美し 乾山 図録解説
銹絵染付の本焼製品の中でも色絵を思わせる艶(あで)やかさをもつ向付です。箱蓋表書に「乾山扇向附十枚」とあり、現在五客となっていますが、これも当初は十客揃いの製品であったことがわかります。
扇形というのも手が込んでいます。タタラ造りで扇を形づくり、よく見ると見込みには檜扇風に段をつけて型造りされています。表面にそれぞれ幹枝を銹絵で、花を染付と白泥で絵付けし、内の側面には遠菱(とおびし)と呼ばれる四ツ菱文が染付で散らされています。そして、口縁と面取された底縁に銹絵で口紅を施し、外の側面には白泥を帯状の巻雲風に引いて、その上から染付で意匠化された唐花菱(からはなびし)(花襷四葉、業平菱)文を型摺りしています。
ここに見る二種類の菱文様は、明らかに公家好みの意匠といえ、注文なのか積極的な顧客開拓なのかわかりませんが、乾山の有職故実に精通した一面が感じられます。透明釉を掛けて本焼し、底は土見せとなって、そこには銹絵で乾山銘が記されています。
乾山銘には文字性が残されており、その書風も三手に分かれます。目の細かい白土系の素地が堅く焼き締まっているのが見てとれます。いまだ絵画性を残す絵付けに文字性を留める乾山銘などを考えると、鳴滝窯時代にまで遡ってその制作時期を置いてもよいのではないかとも思われる向付です。梅、桜、桔梗、紫陽花、椿(山茶花か)と四季折々の花が描かれ、染付の青さがひときわ華やいだ明るい雰囲気を醸し出しています。
|