1526年、北インドにムガル帝国が誕生しました。当時世界で唯一のダイヤモンドの産出国がインドでした。歴代の皇帝はダイヤモンドの他にルビーやサファイアなどの宝石を集め、また交易を通じて貴金属や真珠などを手に入れ、偉大な宝飾品の文化を生み出しました。ムガル帝国が亡びたのちもインド各地の王であったマハラジャたちは、豊かな宝石にヨーロッパのモダンなデザインを加えることで、インドの伝統とヨーロッパの感性が一体となる珍しい宝飾文化をつくりあげました。
カタールはかつて主要な資質であった天然真珠をインドへ輸出するなど、文化的に親密な関係が両国の間に築かれました。そうした文化的背景の中でシェイク・ハマド・ビン・アブドラ・アル サーニ殿下は、2009年にロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開かれた『マハラジャ展』に刺激を受けられ、歴代のムガル皇帝が愛した宝飾品やマハラジャたちがヨーロッパに注文したユニークな宝飾品の中から、殿下の素晴らしい感性のもとに、新しいコレクションをつくりあげられました。
宝石や宝飾品は、それ自身が権威と権力の象徴であります。またその希少性と美しさは神聖なる力を象徴します。したがって宝石には幸せをもたらす力や、邪悪なものを払い除ける力が備わっているとも考えられてきました。もちろん宝石の本質は美しいものをさらに輝かせるという装飾性にあります。近代のファッション性をまとった珍しいデザインが宝石にほどこされて誕生した数かずの宝飾品は、大いにわれわれを楽しませてくれます。日本では宝飾品の文化の、これほどまでに見事な展示は希有のことと言えましょう。
貴重なコレクションをご提供くださったシェイク・ハマド・ビン・アブドラ・アル サーニ殿下をはじめ、本展にご協力いただきました関係各位に深甚なる感謝の念を捧げます。
MIHO MUSEUM館長 熊倉功夫