ごあいさつ かざり ―信仰と祭りのエネルギー

館長 「かざり」は日常使われる言葉ですが、日本美術に見られる豊かな装飾性を端的に言い表す用語としてここ数十年来使われています。MIHO MUSEUMの館長職をこの3月まで勤める辻惟雄が、1988年の「日本の美―かざりの世界」展で用いて以来、国内外で「かざり」を主題とした展覧会が数多く企画開催されてきました。縄文土器の燃えあがるような造形、平安貴族の過差風流、武将の変り兜や、陣羽織、女性をかざる小袖や装身具は、日本美術に流れる一貫した「かざり」の精神を見せてくれました。
 今回はそのベースともいえる信仰の中の「かざり」をとりあげます。仏教伝来のインパクトは、日本に最新の建築や素材などのテクノロジーと同時に、シルクロードを経て洗練された意匠や音楽などの文化ももたらしました。そうした最高で最新のものはまず神仏に捧げられ、貴族や武士の間に広がり、やがて祭りなどを介して庶民の目に触れるようになるのです。本展は、この神仏に捧げた信仰のエネルギーと、人々を巻きこみ魅了する祭りのエネルギーが結晶した「かざり」をテーマといたしました。 展示室 第六章
 そして、ここに辻惟雄の長年の友人であるエツコ&ジョー・プライス夫妻および静岡県立美術館のご厚意により、伊藤若冲のモザイク画が出品される運びとなりました。仏教に深く帰依した若冲の絵画は、仏国土を荘厳(しょうごん)する生命のエネルギーに満ち溢れています。
展示室 第三章
 また、会場には日本人の信仰を育んだ自然の景色、特に信仰が今も深く息づく滋賀の自然景写真をちりばめました。神仏への感謝と祈りがこめられた「かざり」と、そうした人々の営みを包みこむ、大きな自然とともにご鑑賞いただければと考えております。
 最後になりましたが、本展の開催にあたり、貴重な作品を快くご出品くださいました美術館・博物館、関係機関、並びにご所蔵家の皆様、そして準備に惜しみないご協力を賜りました関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。
2016年3月主催者