
世に自称「ソバ通」は多く、あそこのソバ食べたか、どこの手打ちは香りが歯ごたえがと、かまびすしい。それでいて紹介された店に行ってみると、ぼきぼき音がしそうな硬いソバから、つるりふにゃりとしたのまで、人の好みは千差万別、誰もがうまいというソバなんて、この世にないとしか思えません。

ところで、MIHO MUSEUM のレストラン ・ ピーチバレイでも、とうとう手打ちそば登場です。一日限定10食。そば粉が石臼の手挽きなので、これで精一杯なのだそうです。

それでは早速、頂いてみましょう。湯がきたての光るそばが出てきました。つるつるっ、そば粉の濃淡が点々と入ったそばをすすると、これはまたなめらかな口触り。でも嚙んでみると、柔いかと思わせて、最後にしっかりコシが残り、にゅーっと歯に来る抵抗感。昆布、鰹、めじかの出汁が、がっぷりと四つに組む一番です。究極は大根おろし、鮮烈な辛味があり、奥に大根そのものの甘みがある。どっさり入れて思い切りほおばると、横綱級のそばと出汁を包みこんで、両者を支える包容力。この大根の味の切れは、自然の土だけで作った大根ならではでしょう。味わい深く、お口のリセットにも効果大です。

そばうちを見せて頂きました。盛岡産のそばの実は、すでに生産者の方が石抜きをし、粒を揃えて届けて下さるのは、ありがたいことです。石臼にそばの実を入れて、挽いて挽いて挽いて、茶色い殻が割れたら、手でより分けて一回。何でも機械挽きにすると、手挽きより早く回転するため熱が発生しやすく、そばの香りが飛びがちなのだそうです。職人さん、重い臼をゆっくり回し、実の入っている殻を捨てたりしないように、丁寧にこれを3回繰り返します。次に挽いてからざるで漉すのを2回で、ほぼ殻がとれました。6回目には、うって変って湿り気を帯びたような黄色い粉が石臼を覆いますが、これが一番粉。最も細かいこの粉から、打ち粉を取ります。そして7回目、8回目と挽いては漉していくと、そば粉の潰れる部分が変って、色がだんだん濃くなってくる不思議さ。ちょっと湿った草のようなそばの香りが漂って来ました。9回目でようやく挽きあがりです。できたそば粉に、カナダ産の小麦粉2割と水を加えて、かたさを加減しながらまとめ、きれいに伸ばして折り畳んでは切っていく。がしゅっ、がしゅっ、見慣れたそばの姿になりました。ああ長かった、ここまで。そして湯がき時間は・・・えっ、わずか1分半。冷水で揉み、出汁にねぎと大根を添えて、テーブルへ。

「蕎麦大全」なる手打ちそばの指南書に、こう書いてありました。「いい色と香りと味のあるそば粉の確保がいかにむずかしいか・・(中略)・・打って張り合いのないそば粉では、そば屋をやってる甲斐がない。(中略)・・・そば打ちを志すなら、まずそば粉にこだわりなさい。」

もう何も言いません。盛岡産の手挽き手打ちそば。通の皆さん、存分に薀蓄傾けて下さい。 |
やっと取れた一番粉

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