●展覧会案内●
〈特別展〉大仏開眼1250年「東大寺のすべて」

主 催:奈良国立博物館/東大寺/朝日新聞社/朝日放送
会 期:平成14年4月20日(土)〜7月7日(日)9時30分〜17時
場 所:奈良国立博物館 東西新館・本館(TEL0742-22-7771) |
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天平勝宝4年(752)4月9日、奈良の都で国をあげての一大イベントが行われました。東大寺の大仏さまの開眼法要です。大仏の正式名称は盧舎那仏。宇宙を支配する仏、いや宇宙そのものといってもよい、最高の存在です。聖武太上天皇をはじめ、その日大仏殿に集まった善男善女たちは、導師をつとめたインド人僧菩提遷那の持つ開眼筆に結びつけられた長大な糸を手にし、開眼の歴史的瞬間に参加したのでした。当日は、もの珍しい異国の音楽や踊りも奉納されました。華麗に、重厚に、また時に滑稽に演じられる国際色ゆたかな歌舞音曲と、周囲を埋め尽くす造花や幡の鮮やかな色彩が響きあうなか、巨大な盧舎那仏の姿をあおぎ見た人々は、その壮大な世界と一体化するという、至福の体験を共有したことでしょう。
奈良時代以降の東大寺がたどった道のりは、平安時代末、室町時代末の二度に渡る大仏殿焼亡を経験するなど、決して平坦なものではありませんでした。しかしながら存続の危機に瀕するたび、多くの人々の善意と情熱が結実した大規模な復興事業がなしとげられ、その偉観は今日まで守り伝えられてきたのです。
今年(2002年)は大仏開眼から数えて1250周年、という記念すべき年です。この節目の年にあたり、奈良国立博物館で画期的な特別展が行われます。その名も「東大寺のすべて」。わが国のみならず世界の宝ともいえる東大寺所蔵、および東大寺関連の膨大な文化財からよりすぐった、二百数十件(うち国宝25件、重要文化財92件)の展観を通して同寺の全貌を紹介し、その多彩な魅力と、日本文化に占めるはかり知れない価値を再認識していただこうとする試みです。
過去にも「東大寺展」と銘打った展覧会は何度か行われてきましたが、本展はあらゆる意味で空前のスケールと内容を備えています。最大の話題は歴史教科書にも掲載される、天平芸術の最高傑作として名高い法華堂(三月堂)の日光菩薩及び月光菩薩立像(国宝、初出陳。展示は4/20〜6/2)、さらに戒壇院の四天王立像(国宝、6/4〜7/7)が出陳されることです。本展はこれら門外不出の、国宝中の国宝を間近で鑑賞していただける、まさに半世紀に一度の機会と言っても過言ではありません。
また良弁上人坐像 [ ろうべんしょうにんざぞう ](国宝。4/20〜6/9)、俊乗上人坐像[ しゅんじょうしょうにんざぞう
](国宝。5/21〜6/30)といった肖像彫刻の傑作や、鎌倉時代に快慶によって制作され、見事な彩色がのこる僧形八幡神坐像[
そうぎょうはちまんしんざぞう](国宝。6/11〜7/7)など、ふだん非公開の至宝の数々もこぞって出陳されます。このほかにも過去に東大寺から海外に流出した「幻の国宝」、法華堂根本曼荼羅
[ ほっけどうこんぽんまんだら ](ボストン美術館蔵、4/20〜5/19)の約20年ぶりの里帰りや、1250年前の開眼供養に用いられたものを多数含み、その盛儀の様子を彷彿させる伎楽面
[ ぎがくめん ](重文)二十三点の一括展示など、本展以外では実現が困難なみどころが満載です。
MIHO MUSEUM の位置する信楽は、大仏さまと浅からぬ因縁で結ばれた土地です。天平15年(743)、聖武天皇はしばしば行幸していたこの地の紫香楽宮[
しがらきのみや ]で、遠大な理想に基づいて大仏建立の詔を発せられたのです。造立の場所は付近の甲賀寺に定められ、翌年同寺には天皇自らが工事に参加して、大仏の骨柱が立てられたと伝えられます。信楽での大仏造立は政治情勢その他の事情で挫折し、奈良・平城京で再スタートした事業の結果誕生したのが東大寺大仏というわけですが、読者の皆様には、大仏建立というドラマの荘厳なる序曲の舞台として信楽の果たした大きな役割にも思いをはせながら本展を鑑賞していただければと思います。 |
(奈良国立博物館研究員 稲本泰生) |
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