仏立像

仏立像
仏立像
総高250センチメートル。ガンダーラ美術の作り上げた最も大きな仏像と言われる、パキスタン-ペシャワール博物館の仏陀立像(頭光の上まで263センチメートル)に比肩するものと言えるでしょう。ガンダーラは歴史的に民族、王朝の激しく交替してきた地域です。千七百年以上遡る古代、彼の地がクシャーン朝インドとササン朝ペルシャとの抗争の狭間で小国に引き裂かれて行った頃、この大きな仏像はそれだけ多くの人々の救いを祈願して造られたものではないかと思わずにはいられません。
うつ向いたそのまなざしの懐に入る時、何とも言えぬ優しく静謐な雰囲気に包まれるのを覚えます。
このうつ向いていると言うことはこの像が本来高い位置に祀られていた事の証拠であると思われます。礼拝者はこの像の下からその慈愛に満ちたお顔を拝したことでしょう。そのお顔、そのまなざしは他ならぬ礼拝者に注がれています。
同時代の寺院内部を装飾した小さな仏伝(釈迦の生涯の物語)浮彫には、民衆の中で遊行する釈迦が描かれています。そのお顔、まなざしは拝跪するものの顔、まなざしに合わせうつ向けられています。その体勢そのものが拝跪するものに注がれているのです。
大きさこそ違え、これはこの大像とそれを実際に拝する者との関係に他なりませんその許に拝跪する者は全て喜び迎えられるそんな大変慈愛に満ちた聖堂の主であられたのでしょうか。
釈迦がさとりをひらかれ仏陀となられた時、これは他人に話しても誰もわかってくれる人はいないだろう、このまま黙っていようと思われました。
世界の主-梵天はこのままでは世界が滅びると嘆き、釈迦如来の前に現われ跪き拝してこの真理を人々に説くよう三度懇願しました。
そこで釈迦は生きとし生ける者への深い哀れみの心から説法に立ち上がられたのです。この像の左足は僅かに前方に出ています。
直立不動ではなく正に人々を救うために歩むその姿を彷彿とさせるものがあります。この救われるべき拝跪する者に対し全身を注ぎ込む釈迦如来、そのお顔は大変慈しみに満ちています。

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