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MIHO MUSEUMごちそう編
おいしいって 美しい


米粉シフォンケーキの巻
  草いきれの中で、お日様いっぱいの空気を吸い込む。小学生の女の子が、顔いっぱいに笑っている・・・そんな味なんです、米粉シフォンケーキは!!

 プレーンは超やわらかいのに、中まできれいに焼けていて、実に軽々とした味わいです。食べてみると、何だか身体が空中にふんわり浮かんでいきそうな感覚。ケーキの表面は、初々しくもきめ細かいお肌のようで、食べてみるとほんのり香ばしくなつかしい味がします。一方、抹茶シフォンケーキは、もう少し深みがあります。これ以上ないほどのしっとり感で口の中に溶けて行き、小豆と生クリームを合わせると、実にニッポン伝統の味です。

 そもそも何故、こんなに軽いケーキができたのでしょうか?

 MIHO MUSEUMには秀明自然農法の最高級米が届きます。おいしいお米の味を、他の物にも応用できないかしら?お菓子職人たちが実験を始めました。今時はやりの米粉ケーキ、きっとおいしくできるはず。ここには何しろ農薬や化学肥料、抗生物質ゼロの米、卵、砂糖、抹茶、小豆、そしてなたね油にオリーブオイルが届いているのですから。

 けれども、道はそう簡単ではありませんでした。

 それなりにおいしいのに、何だか膨らみが悪いのです。そりゃあ米粉には小麦粉みたいにグルテンがないのですから、膨らませるには卵白だけが頼りです。その卵白がピンと立ち、ボールを逆さにしても落ちなくなるまで泡立てるのが基本ですが、米粉の場合はもうひとしきり、泡立て、泡立て、泡立てて、ボールをどう振っても卵白がぴっしり動かなくなるまで泡立てます。ただし度を越してぱさぱさしたら、これもだめ。更年期のお肌のような焼き上がりになるので、その直前で止めるのです。3回に分けて入れたお砂糖は、沖縄の宮古島産。自然農法で年を重ねる毎に白さを増し、今や手に付いたら指紋の中に入り込んでなくなってしまうほど軽くて上品です。 さあ泡立った卵白を、黄身とお水とオイルと米粉のボールに混ぜ込みます。やさしく優しく、泡をつぶさないようふわふわにして、やおらボールを高々と持ち上げ、焼型にたーっと流しました。けれども、めざす膨らみに到達するには、いったい何が足りないのかしら?

 思い余った職人さんたち、「米粉パンの先駆者」と呼ばれるお方の著書を熟読しました。そこで教わった究極のこつは・・・米粉の製粉だったのです。本に紹介されていた製粉屋さんが施してくれたのは「気流粉砕」。今までの粉に比べて粒子が断トツに細かく水分量は少なく、触るとあまりに軽くて、粉が袋ごと浮きそうです。その米粉でケーキを焼いてみると・・・型のてっぺんから溢れんばかりに膨らんだのでした。本当に料理もお菓子も、関わる方々全員の総合芸術ですねえ。どこがひとつ抜けても、最高のものはできません。

 さて大切なもうひとつの味、それは粒あんです。北海道の小豆、丹波の小豆、そして各地から小豆が届きます。土地によって味の違いが、実にはっきりしています。北海道は北の台地が育てた、ずっしり逞しい強さの味、丹波は京菓子の伝統を引く、限りなく上品な味、そして・・・ある産地のものは、優しい優しい味なのです。ある年、小豆の注文に出遅れて、他の産地がすべて売り切れてしまった時がありました。ところが、そこだけが注文が来るまで、売らずに取っておいて下さったのです。「涙が出るほど嬉しかった。」という職人さん、そこから届く小豆の袋を開ける時は、いつもふわっとその優しさが、小豆から立ち昇るのを感じるのだとか・・・。

 職人さんは言います。粉も、砂糖も、卵も、小豆も、その時々で変わります。同じ袋に入っていても、何かがちょっと違うのです。大自然が下さるものに日々順応し尊重して、職人さんはお菓子を作り続けます。「米粉さん、今日のご機嫌いかがです?」そんな風に話しかけながら・・・。

気流粉砕の米粉

かたーく泡立った卵白

たーっと型へ

米粉の挽き方ひとつで、こんなに変わります。

北海道、丹波、そして各地からの小豆、白てぼう豆。どの餡に当たるかは、来てのお楽しみ
なんてきめ細かいお肌! やわらかーく炊き上がった小豆



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