正倉院の白瑠璃の碗に勝るとも劣らない貴重な品である。中を覗くと一つ一つのカットが煌めきながら映り合い、ガラスならではの美を宿している。ササン朝ペルシアで制作されたとされるこの碗は、はるばるシルクロードを通ってもたらされたが、おそらく主要な輸出品目として大規模に生産されたのだろう。北はスカンジナビア半島から極東の日本まで、このガラスの破片が出土している。
分厚い吹きガラスを成形し、冷えてからカットを施し、磨きを掛けるが、このカットと磨きは現代の機械技術を駆使しても数週間を要する大仕事で、古代の職人の苦労のほどが偲ばれる。輸送に必要な強度と、どの文化にも受け入れられる幾何学文様は、当時のユニバーサルデザインとして非常に優秀な輸出品だったと考えられる。
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