桃の花咲乱れる林を行き、洞窟を抜けるとそこは桃源郷
−もしもあなたが桃源郷をつくるなら……?
われわれ建築の素人は、天井デザインを見上げることは少ない。けれども天井は、部屋の印象を決める大きな要素だとされているらしい。
ペイさんの場合、最初に目に付くのがガラスの屋根兼天井である。エントランス、南館への吹抜け廊下や階段、喫茶室、北館入口がガラス屋根で、この場合天井デザインは、その日の天候と時間によって、刻々と移り変わっている。
エントランスの天囲
ちょっと素敵なのは、喫茶室の夜の天井である。もちろん星空だ。その中に竹の植え込みが、照明を浴びて上下さかさまに映っている。見上げると星空に吸い込まれながら、竹林を縫って宇宙遊泳をしている気分になる。
けれどもこんな贅沢は、どの部屋にも許されるものではない。何しろここMIHO MUSEUM は、県の自然保護区域の中にあるから、建物の総高は13メートル以内と決められているのだ。そこに天井高3.5メートルの部屋が、3フロア分押し込まれている。ではエジプト展示室を見てみよう。
吹抜けの広々とした空間から一瞬低い入り口を通ると、ふたたび天井が高くなる。中央のステージを囲んで、天井は8つに分割され、それぞれがちょうど板チョコのひとかけらのように、台形に盛り上がっている。その台形の天辺の四角が更に区切られ高くなって、この段差が天井を深く見せている。
中国やペルシャの展示室もほぼ同じ構造だが、最後の四角の高さを取れない分、照明を仕込み、あたかも空間があるかのように見せている。ペルシャ展示室は、高さ6メートルの絨毯を展示する壁が奥にあるので、その面積はわずかでも高さの感じは一入だ。
どうしても高さが取れない西アジア、南アジア展示室でも、奥に吹抜けを仕込んでいる。西アジア室の奥は、近づけば上の階とつながった大きな窓から、広々とした山の斜面が見られる。南アジア室では、奥のガンダーラ仏の頭上で、三段階に天井が高まっていき、さらに6メートルの竪穴から自然光が入る。要するに、部屋の一角を吹抜けにして、かならず高さを感じさせる工夫があるのだ。
これは日本美術を展示する北館でも同じことで、四角形にぐるりと巡る展示室群の四隅では、外光を取り込む高い天井を作って、ほっと一息つけるようになっている。
こうしてペイさんは、高さ13メートルという制限との闘いに、見事な勝利を収めたといえるだろう。ただし、押し縮められた各フロア間の極限的空間に、空調、電気、水道などの配管をしなければならなかった技術者の皆さんの苦労も、忘れることはできない。
喫茶室夜景
中国・ペルシャ展示室
南アジア展示室