そこまで出来て、建設会社が胸を張っていたとき、ペイさんはまたやって来た。最終点検である。ペイさんは言った。「この、ややダークカラーのライムストーンを、明るい色のライムストーンに替えられませんか?」それのみではない、返事を待たずに彼は、石工さんを連れて館内を歩き始めたのである。もちろん、どの石を替えるか指示するために。建設会社は頭を抱えた。ここまで美しく納まったのに、やりなおしてきれいにいくのか、いや間に合うのか、その前に石はあるのか?
幸いなことにというべきかどうかわからないが、石はなかったのである。このライムストーンマニドリは、何でもロマネスクコンティという高級ワインを造るための専用ブドウ畑の下にある。地下13メートルの深さからこの石を掘り出すには、ブドウ畑が土を替える時期を見計らって、急いで掘るしかない。今この石を取り外したら、開館までに石は間に合わないとのことである。 |
残念ながら涙をのんで、ペイ氏はあきらめて下さった。全部が明るい色のライムストーンなら、また趣が違っただろうが、今のこの明暗ないまぜの壁の色も悪くない。月夜の晩などには、かえって幽玄に見えることさえある。このへんは、清濁合わせ飲むのが得意な日本人の好みだろうか。さて、あなたはどちらがお好き?なんて聞いたら、ペイさんに叱られるかもしれない。 |

I.M.ペイ氏について |
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1917年
中国・広東州で生まれる。
1940年
マサチューセッツ工科大学卒業。
その後20世紀を代表する建築家として、現在も活躍している。
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主な作品 |
1976年 ジョン・ハンコック・タワー
(ボストン)
1980年 ボストン美術館西館
(ボストン)
1993年 グラン・ルーブル(パリ)
1997年 MIHO MUSEUM(信楽)
2001年 中國銀行本店(北京)
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