MIHO MUSEUM ごちそう編 | おいしいって美しい
お揚げさんの巻
お豆腐を油で揚げたらお揚げさんになる、と思い込んでいませんか? いえいえ、あのふっくらして内側は豆の香り、咬むとお出汁がじゅわ〜っと沁み出す柔らかなお揚げさんは、豆腐とはまた違った技で出来上がる、贅沢な食べ物なのです。
  MIHO MUSEUM のお揚げに使用するのは、名物MIHO豆腐と同じ北海道産・鶴の子大豆、もちろん農薬や肥料なしで育てています。浄水に一晩浸した大豆を石臼で挽き、とろとろの液を釜で蒸します。釜底からぶっぶっと吹き出す蒸気、全体を均一になるよう混ぜると、釜はオフホワイトの泡でいっぱいです。温度が92度まで上がったらビックリ水、そして絞機へ。おお〜、おからと豆乳がどっと出て来ました。それを横目に職人さんは蒸し釜の泡をぺろり、美味しかったら入れるし、そうでないなら入れないのだとか。出てきた豆乳を濃度7度になるよう調整し、容器外側を水冷。「今日は67度だな。」とのたまう職人さんは、にがりを正確に測って投入。うまみと甘みを引き出すには、豆乳濃度、温度、にがりの微妙なバランスが重要なのです。え、濃い豆乳の方がおいしいだろうって? それだと揚げた時に膨らまないのだとか。
  にがりでやわやわと豆乳が固まり、上に引いた布の上に水が沁み出して来ました。その水を捨てながらまた味見、出来栄えを予測します。四角い型に布を敷き、いい具合に固まった豆乳を細かくしてから型の中へ。布をかぶせて簾を乗せ、3つ重ねてコンプレッサーで低圧15分高圧30分ほど絞ります。この絞り具合がまた微妙、沁み出す水が点々と落ち始めたら終了です。これらの作業をしながら職人さん、一度も手を休めません。沈殿や絞りの待ち時間に、ひたすら使用済道具を掃除。蒸し釜、搾り器はもちろん、電動石臼に至っては分解掃除! 終わり次第に容器や布、ザル、続いて床、排水溝の奥までブラシでこすります。上質の豆は油やタンパク質が強いから、すぐに掃除をしないとこびりつくのだとか。
1 膨らんだ鶴の子大豆(秀明自然農法)
5 水分をしぼったお揚げの生地
膨らんだ鶴の子大豆(秀明自然農法)
水分をしぼったお揚げの生地
2 石臼で挽いた豆 6 切った時は小さい
石臼で挽いた豆
切った時は小さい
3 濃度7.2度の豆乳 7 丁寧に世話をして揚げる
濃度7.2度の豆乳
丁寧に世話をして揚げる
4 にがりで固まる前に型へ 8 落とし蓋でお出汁たっぷりに
にがりで固まる前に型へ
落とし蓋でお出汁たっぷりに
他所では強力洗剤をたっぷりかけて洗浄するのが普通だそうですが、洗剤嫌いの職人さんはごく薄いものしか使わず、お湯と手とスピードでこびりつき汚れに挑戦するのには脱帽です。
  いよいよ生地ができました。ほわほわと湯気を発する四角い生地を板に出し、切り落したへりをかみ締めると、しっかりぎっしり詰まった感じ。それでは生地よ、冷蔵庫でおやすみなさい。
  さて次の日、休ませた生地を三角形にカットすると、ほんのり豆の香り。30枚ほどまとめて低温の油に入れると、角から細かい泡が出て、徐々に大きく膨らんで来ました。それにしても上質のなたね油をたっぷり使う贅沢さ。ひっくり返したり沈めたり細かく世話する職人さん、揚げ足りないとぺしゃんこになってしまう生地、さあ頃は良しと見極めて隣の高温油へ。しゅわ〜、職人さん忙しくひっくり返し始めました。内は柔らかく外はさっくり形をキープ、隣の低温油には次の集団が入っています。両方をにらんで揚げては返し、揚げては返し…。表面がしっかりして、へこまなくなったら大丈夫、固くなりすぎないよう即座に油から引き揚げます。そしてあつあつの揚げたてをつまみ食い、おいし〜い!香ばしい風味に豆腐のまろやかさを封入、これは期待が持てます。
  そして次の日、油抜きしたお揚げさんを出汁でコトコト煮始めました。やがてお酒と出汁が香り立つと、火を止めて一晩寝かせます。これでようやくキツネが完成、長かったですね〜。
どんぶりにうどんが躍り、つゆを廻し掛けます。出汁で温めた大きなお揚げにねぎを高々と盛り、ぱくっ。じゅわ〜っと拡がる香りと甘さ、やさしい弾力をかみ締めてお揚げさんを頬張る幸せ、そして身体に沁みるぬくもり。一枚のお揚げには、こんな手間と想いが隠れていたと初めて知ったことでした。



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