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![]() お客様からのお電話である。聞けば食べられないのなら行かないと言う。その日は幸いにもまだ残っていたようで、ご来館いただけたものと思う。天ぷらと蕎麦、天ぷらとうどん。どちらが主役か答えに迷うほど存在感のある天ぷらが、今回のテーマである。職人さんに聞くと、いろいろな本を読み込み、脚で食べ歩いて到達した揚げ方と言う。なにやらこだわりがありそうだ。 まず、きれいに下処理された食材を見せてもらう。秀明自然農法で育てられた野菜本来のうまみがつまった野菜たち。まず目についたのは、ヒラタケに似た笠の部分が黄色い珍しいキノコ。これはタモギ茸というキノコだそうだ。聞けば、天ぷらで揚げると特有の香りがまるくなり、油とも抜群に相性が良いという。一年を通して栽培できるため、定番のネタとの事。よく見るとさつまいもはすでに蒸されている。軽く塩をふり、低温スチーム処理をすること50分、さつまいもの甘味を増してから揚げると更に美味しくなるそうだ。かき揚げの材料は人参、ごぼう、玉ねぎ、春菊の4種類。すべてひと口大の大きさに切りそろえられている。玉ねぎがすぐに噛み切れなくて、食べにくそうなお客様を目撃したことから改良したそうだ。 それでは、さっそく揚げていただこう。油は熱を加えず石臼の重みだけで絞った菜種油を使う。この油はクセがなく食材の味を邪魔しないそうだ。調理台のボールには独自の配合の卵水が氷で冷やされ、揚げる直前に小麦粉を混ぜる。先ほどの食材も冷蔵庫から出てきた。 |
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流れるように進んでゆく。まずは揚げ時間の長い人参、タモギ茸、次いでレンコンが入る。春菊は入れてから形を整える。軽く心地良い天ぷらを揚げる音が響く。いよいよかき揚げが始まった。食べやすい大きさに揚げてゆく。玉ねぎが少し色づき、こわれそうな位の硬さがちょうど良く、少し長めに揚げて水分をとばすそうだ。油から上げるとそれぞれの具材が立体的に組み合った、サクサクのかき揚げが出来上がった。 試食のために温かいおうどんも準備していただき恐縮したが、この天ぷらは、麺と一緒に提供するように合わせているのだからという。麺つゆに合うよう、衣は少し厚く、わずかに塩を入れているそうだ。それではと、まずはフキノトウをそのまま食べてみる。サクッと口に含むと、じわっと春の苦味が口に広がり後味は甘い。かき揚げは、ホロッと口の中で崩れる。玉ねぎの少しこげた苦みと甘味、春菊の風味が口と鼻に広がった。麺つゆにつけていただけば、出汁と衣のコクが加わる。それはまたうどんにも絡み、無言のうちに箸が進んでしまう私であった。 「天ぷらは衣に包んだ蒸し料理。しかも、水分が飛んでうま味が凝集する。」と職人さん。これこそ、天ぷらという料理の本質だと思う。今回取材して、特別なこだわりというより、天ぷらという料理法をよく理解し、良い油と食材を使い、基本をひとつひとつ丁寧に積み上げることが、大きな差となって味に表れることを思った。そして、その手間のひとつひとつに、食べる人を思う職人さんの気持ちを強く感じた。 |
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みずみずしい人参と、きめの細かいレンコンが歯ごたえを考えた絶妙の厚さで並び、春菊の緑が彩りを加えている。
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よく冷えた衣液に、小麦粉をまぶした具材を入れる。
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近くの敷地で今朝採ってきたというフキノトウも揚げてくれた。花芽の方から油に入れてよく火を通すと花が開いて苦みが飛ばされるという。
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かき揚げの具材。揚げ時間と食べやすさを考慮して厚みを調節しほぼ同じ形状に切りそろえられている。
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表面の彩りを考え、具材を足すことも。
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