日本古来の年中行事や祭典にはよほど縁遠くなってしまった現代人にも、新しい年を迎えれば神社に詣で、心新たに一年の幸いを祈念する人は多い。その際、多くの神社の鳥居の先でまず迎えてくれるのが一対の狛犬の像である。しかし本殿から少しはなれ、平素は気にすることもないほど当たり前に立っているこの神獣、よく見ればその姿は日本にも東洋にもいないライオンに似ている。しかもこの神獣はある時期から頭に角を持つものと持たないものが対となることがあり、角のあるほうを狛犬、角のないものを獅子と区別しているのである。
さらに狛犬の「こま」も元来は朝鮮半島にあった国、高麗(こうらい)をこまと呼んでいたことに由来するのかもしれないと気づけば、その名前自体に、わが国の人々がこの神獣を見知らぬ海のかなたから渡ってきたものと考えてきたことが窺われる。
ところがこの神獣によく似た造形をたどってゆくと、どうもその由来は朝鮮半島どころか、はるかユーラシアのかなたまで遡ってゆくように見えてくる。この度の展覧会ではわが国の特色ある獅子と狛犬像を紹介するとともに、エジプト、西アジア、中央アジア、中国などの獅子や角を持つ神獣を展示し、世界的な視野から、わが獅子と狛犬の来たはるかな道をたどろうとするものである。
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